ⓔコラム17-3-3 好中球細胞外トラップ (Neutrophil extracellular Traps: NETs)

 NETsは,活性化した好中球がみずからの二重鎖DNAにミエロペロキシダーゼ (myeloperoxidase: MPO) やエラスターゼ (neutrophil elastase: NE) など好中球細胞質に存在する顆粒内抗菌蛋白・ペプチドを絡ませた網状の構造物を細胞外に放出することによって,周囲の病原微生物を捕捉・殺菌する機構である.NETsを放出する過程はNETosisとよばれ,アポトーシス,ネクローシスとは異なる好中球細胞死と位置づけられている.その後の検討で,好中球以外に肥満細胞,好酸球,マクロファージ・単球でも同様の現象がみられることが報告された.

 種々の病原微生物や生理活性物質などがNETs産生を誘導することが知られている (表1).当初NETs産生にはNox活性化を介した活性酸素産生が必要とされたが,現在は活性酸素非依存性のNETs産生が報告されている.ノックアウトマウスなどの解析から,NETs産生にはpeptidylarginine deiminase 4 (PAD4) 酵素によるヒストンのアルギニン残基からシトルリン残基への変換 (シトルリン化) が必要とされている.

表1 NETs産生を誘導する因子 (新井康之,山下浩平:炎症と免疫,2014; 22: 122–134).

 NETsは重要な感染防御機構である一方,周囲に障害活性の強い因子を放出するため,過度のNETs産生が血栓症や自己免疫疾患の病態形成にかかわることが知られている.現在では,NETsが,細胞障害・組織修復の遅延,炎症,血管の閉塞,腫瘍細胞の捕捉・増殖促進,自己抗体産生,サイトカイン・ケモカインの分解,などに働き,さまざまな病態に関与することが報告されている (図1).このように,生体にとってNETsはいわば”諸刃の剣”である.生体内ではDNA分解酵素などさまざまな因子によってNETs産生が制御されており,この機構の破綻により種々の疾患・病態がもたらされると考えられる.

図1 NETsの二面性 (Papayannopoulos V: Nat Rev Immunol, 2018; 18: 134–147より作成).

〔山下浩平〕